大切なものを守る方法










「ライ、迎えに来たよ」





それは突然だった。




黒の騎士団に入って作戦補佐になってから暫くたったある日のことだった。






その日は朝から空が曇っていて、たしか午後から一部で雨が降るそうだ。





カレンにこの後どこかいかないかと誘われていたが、断ってよかった。



そう思ったてたが、一緒に出かけてれば良かったとも思う自分がいる。


「そっか・・・最後かも知れなかったのか・・・」



「・・・?どうしたの?」


小学生くらいの身長のその男の子はゆっくりとライに近づいてくる。

貴族の格好をしていて、その腰をこえる髪をゆっくりと揺らして歩いてくる。

その格好の所為で、このシンジュクゲットーにいるとそこだけ次元が違うように見
える。


(いや、『見える』じゃなくて実際にそうかもしれない。)





現にぽつぽつと雨が降ってきているのに、何故かその少年に雨が当たっていない。
そしてその少年はライの前まで来て止まり、ゆっくりと見上げた。

「はじめまして、君はライだね。僕の名前は・・・」


「『V.V.』だろ?」


「そっか、C.C.から聞いたんだ・・・。吃驚したよ。」

言葉ではそういってるがV.V.は全く驚いた顔をしていない。

そしてクスっと笑った。

「でも本当に吃驚したよ・・・」


(・・・?いったい何が言いたいんだ・・・?)

訳が分からず、ライは首をひねった。

そんなライを見てV.V.はまた微笑んだ。


「やっぱり彼の言うとおりだ。」

「彼・・・?」

(・・・バトレーか?)


それだったらあまりいいことは言わないだろう。

なんせバトレーはライのことを『狂王』といい、目をあわせようともしなかった。
(その上あの人所為で・・・)

ライは表情を曇らせた。

「なにを考えてるかよく分からないけど、少なくともバトレーではないよ」


(・・・バトレーじゃ、無い?)

「君を良く知っていて、君が良く知っている人。
 ライは頭がいいから分かるよね?」

ライの頭には一人の人物が浮かんだ。

だがそれはありえない。

なぜなら彼は、



「まさか・・・そんなはずは・・・」

「その様子なら分かったみたいだね」

驚愕の表情を隠せないライをみて、V.V.は満足そうな顔をした。





そしてゆっくりと手を伸ばし、ライの頬に手を添えた。


「君は本当に綺麗だ。彼の言うとおりだ。


 そうだ、彼ねー、とても寂しがってたんだよ。




 君がいなくなってしまったから・・・」


V.V.の言葉が頭に入ってこない。


それでもその言葉は淡々と続く。





「君は今黒の騎士団にいるんだろう?

 どうしてあの人を殺そうとした人たちのところにいるの?

 君は綺麗だから人を引きつけさせて、いや、惹きつけさせてしまうんだね。

 それでゼロに飼いならされてるの?

 ねえ、答えてよライ。」




V.V.が無理やりライの顎を下に向かせた。

ようやくライは意識を戻し、その手を跳ね除けた。



「・・・V.V.」

「なあに、ライ?」

V.V.はまるで子供をあやす様に答えた。



「僕は黒の騎士団でやりたいことがある。

 それがすむまでは戻る気は無い。」

はっきりとV.V.の目をみて言った。

そうしたらV.V.はあからさまに表情を曇らせた。
「・・・僕たちがそんな返事で満足すると思う?」


「僕たち」には、彼も含まれているのだろう。



「力ずくでも、無理やりでも連れて行くよ?」

「・・・」

「・・・強情だね、じゃあこっちにも考えはあるよ?」

「なんだ?」


そこでV.V.はいったん言葉を区切り、はっきり、ゆっくり言った。


「アッシュフォード学園」



想像していた中で一番最悪な単語が出てきた。




駄目だ。

冷静を繕おうとするが、手が震える。



「ねえ、ライ分かってるよね?」


分かりたくない。


「あそこはマリアンヌが大切にしてたから、あまり手を出したくは無いけど

 君のためなら、少しくらいは無茶をするよ。」


「それにあそこには・・・ライ?」





僕を守ってくれた、あそこが崩れる。






「ライ、泣いてるの?」

綺麗な彼から綺麗な涙がこぼれている。


(なんかむかつくなあ、あそこにいたときは泣くことがなかったのに)


きっと彼はあそこで大切にされて、大切なものを見つけたんだろう。


(僕はシャルルと違うから)

そしてV.V.は優しい手つきでライの涙をぬぐった。



「君に時間をあげる。明日またこの時間に迎えに来るから。」






そしてV.V.は振り返ることなくその場を後にした。


(ああ、これで彼は僕の・・・いや、僕たちのものだね)









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