彼が世界からいなくなった日








それに気づいたのは世界でもほんの数人しかいない。


さらに言えば二人。


コードを持ったC.C.とV.V.のみ。









そのころ黒の騎士団ではいつものように作戦会議が行われていた。







(遅い・・・)

カレンは自分の隣の空いている席を見つめた。



黒の騎士団であるカレンとライはこの会議に出席することが義務付けられていた。


会議が始まる5分前。

まだ他にも集まっていないメンバーは結構いたが、時間や細かいことを守るライはいつ
も最低でも10分前には来ていて、一人で会議の準備をしていた。





(まあたまには遅れてくることも有るわよね・・・)


そしてカレンは自分に渡された書類に目を通し始めた。





彼女は知らない。

ライが今どこで何をしているのか、何をしようとしているのか、を。








結局、会議始まり時間を過ぎてもライは来なかった。


「なーカレン!」

カレンが声の方を見ると、玉置は左肘をつき、右手の人差し指をカツカツと打ち続けて
いる。

「何?」

「なんで会議の時間になってもあいつら揃わないんだよ!!」


カレンはため息をついた。

今この場にいないのはライだけではない。

黒の騎士団のリーダ・ゼロとその愛人(?)のC.C.もここにはいない。







「知らないわよ、っていうかなんで私に聞くのよ?」

「お前はライと同じ学園に通ってるし、ゼロの親衛隊隊長だろ?」

「まあそうだけど・・・」

「ねーカレンちゃん、彼に再検査って言っといてくれない?」

カレンが振り返るとそこにはラクシャータがいた。

「あれ?この間もやったんじゃないんですか?」


前に自分と一緒にラクシャータ作の特別プログラムをやった覚えがある。



ラクシャータは煙管をくるくる楽しそうにまわした。


「ほらー前の結果は全然だったでしょう?」

「まあ、・・・」


あの時は仕方がなかった。

彼をここにつれてきた日、その日のうちにとったデータ。

まあ前ゲットーで乗ったのが初めてだとしたらたぶんあの時が二回目と考えていいだろう。


そんなライに対し、ラクシャータは歓迎と言ってあの鬼プログラムをやらせた。


正直、あれは人がするプログラムじゃないと思う。


カレンは前からあのプログラムをやってきたが、初めてのライに対して、『男の子だ
から』といって四方八歩からミサイルが同時に飛んできたり、地面の下からのいきなり
の攻撃、上空からの爆弾投下など、かなりやりすぎなものをライにやらせたのだ。





カレンでさえかなり難しいものになると思うのに、ちゃんとした騎乗経験が無いライ
にあれはかなり厳しかったようであまりいい結果がだせなかったらしい。


(まあそれが普通よね・・・)



多分、ライ専用の機体、『月下』にまた新たな改造を施すのだろう。


「分かりました、伝えときます!」

カレンが元気よく返事をした時丁度ドアが開いた。


「おそ・・・?」

入ってきたのは一人。


みながドアを注目する中その人物は無表情でスタスタと入ってくる。


「なんで・・・ゼロは?」


「遅れてくる。先に次の作戦について確認してろ、と。」

そしてC,C,はゼロの席の隣に座った。


黒の騎士団の団員達がみな不思議に彼女を見る。

彼女がここに一人で来ることはかなり珍しかった。

普段彼女はゼロの後を静かについて行くだけ。

会議等は特に、遅れてくることはしょっちゅうあるし、来ないこともある。





ついでにライのことも聞きたかったのだが、団員達はみな何もいえなかった。


何故なら彼女の回りには普段と違うオーラがまとわり付いているからだ。

(これはもしかして・・・)

「C.C.、お前怒ってるのか?」



((((玉置ー!!!!))))



カレン・扇・杉山・南・その他の団員は一斉に玉城を睨み付けた。


玉置ですら分かるほどのオーラをC.C.は隠すつもりもなく放っていた。


どうせ今日もC.C.が無視して会議が進むんだろうと誰しもが思っていた。

ところが、意外なことにC.C.は返事を返した。

「まあ、ちょっとな・・・」

彼女はいつもの無表情をほんの少し歪ませて苦笑いを作った。

「へー、珍しいな〜。
 そうだ、よし!!ゼロの親友である俺に相談してみろよ!!」


「・・・」


暫く沈黙が続き、それに耐えられなくなったカレンが会議を始めようと口を開いたとき、

C.C.はゆっくり喋りだした。


「・・・知り合いの話だ。」


(今日は本当に珍しいわね・・・)

カレンはそんなことをふと思いながらC.C.の話を聞いた。



「過去に、大きな罪を犯した男がいた。



その男が犯した罪は例えその男一人が死んだとしても償うことの出来ない大きな罪だ。


だがその罪はその男だけが悪い訳ではない。



父親や兄弟には見放され、幼かった男一人で妹と母を守らなければならなかった。




そしてその男は前に犯した罪を今償おうとしている。



だが男には今やらなければならないことがあるんだ。





その知り合いにはそいつを止めることが出来なかった。」

そこまで言うとC.C.は再び口を閉じた。

「・・・それって一体誰のことだ-?」

「だから言っただろう?私の知り合いの話だ。」

そういっていつもの笑みを浮かべるC.C.を見てカレンは直感的に思った。

(知り合いって言うのは多分C.C.のことよね・・・
 そしてその男って・・・)



「じゃあ、結局その知り合いはどうしたの?」


「・・・気になるか?」


「気になるに決まってるじゃない!、そんなとこまで話されたら!」





暫く無言でじっと見てくるC.C.に、カレンは黙って答えを待った。







「・・・お前が一番に守りたいと思うやつはだれだ?」


「えっ・・・」


すぐに答えるつもりだが声が出なかった。


カレンはC.C.の質問に驚いたわけではない。



カレンが驚いたのは、その質問を聞いて、自分が一番最初に思った人物ー。




「ぜ、ゼロに決まってるじゃない!」


カレンはゼロの親衛隊隊長。



そしてそれが当然の答えであるが。



「迷いが見えるぞ。」


カレンがC.C.に抗議しようとしたとき、部屋全体に異変がおきた。



青白い光が部屋を包んだ。





「とうとうこのときがきたか・・・」

時間が止まったかのように少しの間だけ固まる団員達を見てC.C.はつぶやいた。



「えっと・・・今何の話をしてたんだっけ・・・?」

「私が質問していたんだ。」


そして続けて質問を繰り返した。

「お前が一番に守りたいと思うやつはだれだ?」

「・・・ゼロに決まってるじゃない。」


カレンはそれが当然だという顔をする。


「そうか・・・」

そしてC.C.はそのまま部屋を出て行った。



「・・・変なの。」












そして世界からライは消えた。












MAIN