冷たくて暖かい







人を殺すのに感情はいらない。


べつに誰がどこでどう死んでもかまわない。






そのはずなのに。



彼を知ってからこの行為で心の奥にもやもやが出来てしまう。

だから―。




そんな時は彼に会いに行く。



















ブリタニア本国にある、奥の奥。


機密情報局の奥の奥。



局の職員たちのほんの一部しか知らないその場所に、彼は捕らえている。




何十ものパスワードを打った後ロロは、彼のいる部屋に来た。


今までの無機質な機会の部屋から、豪華で華やかな貴族の寝室に変わる。




その部屋の真ん中の、豪華な二人用ベットの中心に一人の男が座っている。



身長は高校男子の平均を少し上回る位なのだが、その人形のような顔立ちの所為
で、青年というよりは少年が相応しい。


格好は部屋に全く合わない拘束服を着ているが、その部屋の主の所為でその服が
違和感無く見えてしまう。



銀色の髪の襟足を遊ばせ、瞬きするたびに、ぱちぱちと音が鳴りそうな睫。

伏せられた蒼の瞳を見るたび、ロロは彼に対して「人形のようだ」という言葉が
常に浮かんでしまう。

その上彼はほとんど無表情。


僕に対して笑いかけるなんて勿論なく、V.V.に対しては顔をみるだけで嫌悪を

思いっきりあらわしていた。



それ以外の他人には無表情の上無視。

そんな機械のようで無機質な彼がここに来て、約一ヶ月が過ぎようとしている。





「ライ」

そうロロが呼びかけるとライは無表情のまま顔をあげる。


「何故怒らないの?」

「・・・」

「あなたは今、拉致・監禁されているのに」

ロロはライの顔を見るが、その顔は無表情のままで。

静かな時が流れた。


ロロが何かいい、ライはなにも言わずただ聞くだけ、といういつものパターン。


だが今日は違った。

暫くしてライはゆっくり口を開けた。



「・・・僕は償いようのない罪を犯したんだ。」



(珍しいな・・・)

普段滅多に口を開かないライが話をしてる。

ロロがライと会話と言えるものをしたのはこれが初めてだった。


初めて自分に対して話すライの声は今までとはどこか違う、特別な響きがあった。




「必要ないんだ、自由なんて」


「・・・」



「罪人にはね」



「へぇ、罪人なんだ」

ロロはちゃかすように言ったがライは少し悲しそうな眼をロロに向けた。



「君は・・・君は何でここにいるんだ?」


ライの表情とその言葉にロロは少し吃驚した。



今まで考えもしなかった。






親や親戚なんていない。






友達だっていない。



というよりも必要ない。


自分一人が生きていくには、世界は危険すぎる。

周りの人間は信用できない。


ロロは今まで一人で生きてきたのだ。


そしてこれからも―。



なのに、何故言葉が出てこないんだろうか。











ロロは動揺を隠そうとしているが、全く隠せなかった。

「何でって、・・・ここが・・・・ここが僕の居場所だからだよ!」


ようやく絞り出した声は震えていて掠れていた。




「君は・・・」


ライが悲しそうな目でロロを見る。



それがまたロロを追い詰める。



ロロはその目を知っている。


たくさんの人間を殺してきた彼にはわかる。





「僕の居場所がここなんだ!!ここは僕を必要としているんだっ。」






彼の穢れの無いまっすぐな瞳が自分を見ている。



悲しそうな、悲しそうな顔で。



ライが口をゆっくりあけ、静に呟く。


その一つ一つの動作でさえロロにはスローモーションのように見えた。

「・・・そうか、ここが君の居場所なんだね」

ライはなだめるように静かで落ち着いた声を出した。


「そうだっ!だから僕は!」


「でも君はここにいるべきじゃない。」


「っ!!」


「こんな冷たく汚いところに君はいるべきじゃないんだ!」





彼の言葉が自分を否定している気がした。





この人はなにも分かっていない。





分かっていないからそんな奇麗事を言えるんだ。




本当の自分のことを知っても彼は同じことを言うのだろうか。





自分の両手は水で洗い流しても落ちきれないほど汚れている。






何も分かってないんだ。



何も―。








なのに何故だろう。



何も言うことが出来ない。


ここまで自分に言ってきた人間はいなかった。


対処方法が分からない。



(今まで僕はこんなときどうしていたっけ)

そんなことを考えていたら意識がとんだ。







「っう・・・ぁ、・・・」


ライの悶える声に反応してロロはようやく自分がしていることに気が付いた。




慌ててロロはライの首から手を離した。





とたん、ライは体の力が抜けたようでベットに倒れこみ、荒い呼吸をした。






自分が暫く意識を失っていた間ずっとライはロロに首を絞められつづけていた。





なのにロロの手にはライが抵抗してひっかいた傷などが全く無かった。


その代わりに、ライの首にはまだくっきりと手の跡が残っている。



「っはあ・・・はぁ・・・」

ロロの心に罪悪感が広がった。



「何も知らないくせに勝手なことを言わないで下さい!」


ロロはそのまま荒い足取りで部屋を出た。







扉が閉まった。


部屋の外は少し寒い。



体がさめたことによって、自分の頭も冷えたらしい。


(彼を殺しては駄目だ・・・あの人が怒るだろうし、それに・・・)






ゆっくり深呼吸するように息を吐く。



(大丈夫だ、今僕がすべき事は。)



そして迷いの無い足取りで廊下を進む。




(僕は『弟』、ルルーシュ・ランペルージの弟)





そしてターゲットの元へ向かった。





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