束の間の平穏







その日、ルキアーノはラウンズの仕事の為にエリア11にいた。


仕事と言っても特に特別な任務と言う訳ではなく、ただ報告書を出しに来ただけである。
日々の細かい事務仕事も最近見つけた優秀なお気に入りにやらせているので、これから処理しなければならない書類は今の所ない。
よって書類を出せば今日はこれからほぼ丸一日暇と言う訳だ。

ルキアーノは自分の執務室の机の上に置かれたファイルを眺めた。

丁寧にファイリングされたそれはこのエリア11に住む彼のお気に入りが、恐らく朝一で届けに来たのだろう。

本来この書類はラウンズの機密書類であり、ルキアーノの所に速達で届けられたものだ。
それにざっと目を通し「この程度なら自分がやらなくても良いだろう」という彼の判断でライの元に届けさせた。
細かい指示も書かずにただ一言『これを処理しろ』というメモのみ添えただけなのだが、それをライは文句を言わず黙々と仕事をこなしたらしい。



(相変わらず事務処理能力が高い男だな)

丁寧で簡潔なメモまで添えてられていてライの几帳面さが滲み出る書類だ。

(どうせやることもないし偶にはあいつの顔を見に行くのもいいか。)

遠いところからエリア11までわざわざ来たのだ。
何時も仕事を押し付けてばかりなのでおそらく自分の顔を見るとあいつは無表情を崩して呆れた様な顔できっとこう言うのだろう。
『―また仕事ですか?』

その嫌そうな顔を想像し、ルキアーノはふっと笑った。


偶には書類以外の土産でも持って行ってやろう。

ルキアーノは書類を持って部屋を出た。



(そういえばあいつの好物って・・・食い物か?)

書類を出し終えて機密情報局へ向かっているときふと思い浮かべた。

ライが喜びそうな物を思い浮かべたが特に思いつかない。
普段、私用で軍の施設から出ることを禁じられているらしく、支給品のみで暮らしているライの部屋は質素で生活感がない。

ルキアーノが思い浮かべるライの表情は大抵が無表情かあきれ顔をしている。

唯一ライが彼の前で目を輝かせたことがあり、それは軍の食堂にいた時でラウンズ専用のメニューを出させた時今までに見たことがない顔をしていた。
驚愕と憧れが混じったような表情であまりにも真剣な目でこれを見つめるので一言「食べるか?」と聞いた瞬間にルキアーノを見上げた顔は一度見たら誰しも忘れることは出来ないだろう。


そんな顔が出来るなら普段からやれと言いたくもなったかがあまりにも幸せそうに平らげていく様子をみて口を出すのはなんだか気が引けてしまった。

(何時か我が屋敷に招待してやるか)


そんなことを考えながら歩いていると廊下で談笑するラウンズ二人組が視界に入る。



緑マントの金髪長身男とマントと髪がピンクの少女。

(またこいつらか・・・)


この二人は仲が良いらしく、ルキアーノが見かけるときは大抵二人組でわいわいやっている。

とは言っても、一方的に一人が喋りそれに対してもう片方がただ頷くだけなのだが。


騒がしいのは性に合わないのでなるべく避けて通ろうと思ったが、足音に気づいたらしく長身金髪が振り返る。


「あ、ルキアーノ」
「・・・。」


ナイトオブラウンズにしては珍しく、人懐こい性格で明るいヴァインベルグ家の三男坊が近づいてくるのでルキアーノは溜息を顔に出さないようにした。


お互い共にあまり好意を持っていないのは分かっているが、社交的に顔見知りの同僚に対して素通りは失礼なのは分かっているので表面上の付き合いをしている。

「これはスリーにシックス、仲が宜しいことで」

「いやあ、それほどでもないさ。な、アーニャ!」
「・・・うん。」
「それにしてもここにルキアーノが来るなんて珍しいな!もしかして新入りを見に来たのか?」


「新入り、ああ例のイレブンのことか。」

そう、この度ブラックリベリオン終結後新たにラウンズにもう一人メンバーが増えることになった。

その人物はナイトオブセブンの空席に入ることになる。

このことは一般の人々にも知らせており、今現在各地ではその話題についてどの国でも持ち切りの話なのだ。

皇帝直属のラウンズに新たな人物が加わること。

そして何より人々が驚いているのはその人物はエリア11出身の者なのだ。

元々その男は今は亡き王女・ユーフェミア殿下の騎士をしていたが、皇女の死後ブラックリベイオンで功績を挙げ皇帝に謁見し、その場で褒美を頂きこの地位を勝ち取ったのである。

このことについて
『イレブンなどに与えて良い役職では無い』
『騎士としての役目を守れなかった者には勤まらない』
などの意見もあったが、それは小意見に過ぎなかった。

その功績は大きく、皇帝陛下の命であったので殆んどの人間彼を認めたのだ。
そして人々が何より評価したのは『悪の反逆者・ゼロの捕獲』であった。

処刑された今でもその正体を知る者は世界でもほんの数人だけである。

ラウンズでもこの正体を知る者は二人のみなのだ。


一人はナイトオブワン、そしてもう一人はこの男・枢木スザクなのだ。




「いや、ただ仕事があっただけだ。そういうお前達は奴を見に来たのか?」


「まあそんな感じなんだが、スザクは丁度仕事中でここにはいないんだ。」
「・・・任務でシュナイゼル陛下の元に。」


ファーストネームを人の許可なく勝手に呼ぶのはこの男が得意としていることだが、この女が自分から口を開くということは相手を少しなりとも気に入っているのだろう。
ということは

「もう既に会っているのか?」

「ああ、私はKMFでの馬上試合までやったさ!」
「・・・ジノは判定負け。」

「ほう・・・」

「結構凄い奴でさ、これから任務も兼ねて会いに行くんだ。」
「・・・。」

新しいランウンズは中々出来るようだが(まあ当たり前だが)今の自分にはあまり興味がひかれない話だ。

「そうか。では私は用事があるのでこれで失礼する。」

ルキアーノがあっさりとその場を離れるとジノは少し意外そうな顔をした。

「え、ああ。」
「・・・。」


(こんなくだらないことで時間を潰すのは無駄だ。)

そう思いそのままライがいるであろうトレーニングルームを目指した。







ジノはルキアーノが去っていく後ろ姿をじっと見つめぼそっと声を漏らした。

「珍しいなー。」
「・・・何が?」

「戦闘好きのルキアーノだったら絶対スザクのとこに行くと思うだろう?」
「・・・確かに。」

イレブンとしての異例の特派入りの時点でスザクはかなり有名なパイロットである。


「あいつだったら強い奴を見つけると無理やりにで模擬戦闘をやるだろうし・・・」
「・・・。」

「なんかあったのかなーアーニャ?」
「・・・・・・きっと・・・」

アーニャが言葉を切ったのでジノは後ろを振り返った。

「?」
「・・・きっとスザク以上の相手を見つけたんだと思う・・・。」

彼女の返答にジノは考えこむ様な仕草をした。


「スザクは面白い奴なのになー、それにしてもルキアーノが興味を持つ人間か・・・よっぽどの美人とか?」


「・・・よほどの兵かも。」


まあある意味この二人がの言っていることが当たっているのだが、実際に会うのはまだもう少し後の話である。










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ひさびさですいませんっ;;




2010.06.02

















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