吸血鬼対古代人












ライが肩を押さえ、膝を突いた。

「私はまだ本気じゃないんだが。」

ルキアーノはにやりとし、クナイを手の上で回した。


ライは無表情のままだが頬には横に赤い線が引かれていた。






やはりラウンズとの実力の差は大きい。

ヴィレッタは息を飲んだ。

確かに見る限りでもライの実力があるのは解る。

だがライはあと一歩ルキアーノに届くことが出来ないものがある。









ライがルキアーノに突っ込んでいき右手に持ったサクスを振る。

当然の如くルキアーノは避ける。

それを後ろに一歩下がってルキアーノは交わしその体制のままクナイを投げる。

ライはそのことを勿論予測していたので焦る事は無かった。

それをライが前に進みながら低い体制のまま手を床に着き、右足を腹へと向けた。


この時間わずか5秒。



普通の人間にはこの行動を全て認識することすら出来ないだろう。



(よしっ)

この距離でこの蹴りを交わすことは不可能だと確信した瞬間。

『お前・・・なかなかやるねー。』

ルキアーノまでの距離はあと数十センチしかない。

だがルキアーノの表情はあくまで余裕のものだった。




『っ!』


ルキアーノはぶつかる瞬間にライの足首をがっと掴んだ。


驚いたライが足を引くが、ルキアーノは見た目よりはるかに力があり足の拘束を解くことが出来ない。

ルキアーノは左手で引き寄せ其の侭右手を頭目掛けてクナイを振り落とす。






咄嗟の判断でライは頭を仰け反らせて足を捻り何とか抜け出し数歩後ろへ下がる。

だがルキアーノはライに追加でクナイを同時に数本投げた。

とっさの事に反応仕切れずライは体制を崩して倒れこむ。




ライはじりじりとした頬の痛みに顔をしかめた。

どうやら先程の攻撃を避け切れなかったらしい。

太ももと肩にもクナイがあたり関節は外れてないが動かす度にずきずきとした激痛が走る。












(強い・・・)

ライが想像していた以上にルキアーノは強かった。

やはりラウンズと一般兵の差は埋めようの無いものだ。

ライは頬に傷をつけ肩と太ももも負傷したが、ルキアーノは全くの無傷。

ライの攻撃はあっさり攻略された上に反撃までされてしまったのだったが、ライには焦りは無くただ不思議な感覚に揺られていた。


(なんで僕は戦えたんだろう)

自分は戦い方を知らないし、誰かと戦った経験なんて無い。

でも目の前に敵がいると思ったら体はそのまま走っていった。

そして目前に来た時、何故か体が勝手に動く感じがした。


その時ライは自分の体が軽くなった気がした。




ライには過去の記憶が無い。

それは自覚していることで確かに自分の頭から記憶がすっぽりと抜け落ちている感覚がする。



でも体は動く。


もしかして体は何かを覚えているのだろうか。



今まで記憶が無くても別に自分には何も無いので特に困ったことは無かった。



もしかしてこうして戦えばもっと何かを思い出すんだろうか。



もしかして僕は軍の中や戦場にいてこうやって戦ってきたんだろうか。








ああ、そっか。

僕は強くなりたかったんだ。

その為に誰かと一緒に特訓したんだけ。

−誰と?


思い出すのは花一面の綺麗な庭園。

セピア色の一面に所々色が輝く。

誰かが僕の名前を呼ぶ。



―僕は、――私は、
















(所詮一般兵とラウンズの差、埋まる筈が無いか。)

ルキアーノは膝をついたライを見下ろした。

銀髪の少年は顔を歪めて肩を押さえていた。

まあ肩の関節を外したはずだから痛いのはごく当然のことだろう。

顔には赤い線が引かれており、そこから血が流れている。

ライが手の甲で血を拭う姿を見てルキアーノある事に気がついた。

(顔に疵は不味かっただろうか―)


皇帝陛下との繋がりと顔の造りや雰囲気を考えるともしかしたら皇族という可能性が考えられる。





それにしても何故こいつが皇帝陛下と関わりがあるのだろうか。

確かにあの動きは相当な訓練をしたものだろうがラウンズには全く及ばない。


(全く皇帝陛下は何を・・・)


目の前の人物が動く気配がしたのでルキアーノは目線を上げた。



ライはゆっくりと立ち上がり、静かにルキアーノを睨んだ。



「お前、」



ルキアーノはライのまとう空気になにか違和感を感じた。

何者だ、と言おうとした言葉は口から出ることは無かった。


気づいた時にはライが目の前まで来ていた。


ルキアーノは一瞬ひやっとしたが焦らず構える。

ライは流れるような動きで両手のサクスを振り回す。

その動きは先ほどの動きと違い、荒々しさも無ければ焦りも無い。


抑揚の無い動きで淡々としているが、動きに隙が全く無い。





ただぼうっと突っ立っているようにも見える。

先ほどまでは蒼い瞳に何も感じなかったのに、今はとても冷たく鋭いものを感じる。




(何があったかは分からないが、 面白い。)

ルキアーノはにやりと微笑んだ。

目の前にいるのはそこらへんに転がっている只の獲物じゃない。

この男は知っている。


この目は覚悟を決めた目だ。


死と隣合わせに生きているー。






ふっと鼻で笑いだんだん笑いが大きくなる。

「くっく・・・はっはっは!」



久々の大物が引っかかった。



「なあ、お前は一体何者なんだ?」


ライは顔を上げルキアーノを横目で睨み付けた。

その顔には不機嫌なのがはっきりと浮かんでいる。



「私にそんな下劣な言葉遣いをした人間は随分と久しいことだ。
 よほど育ちがいいらしいな。」


ライは間合いを詰めてサクスを振り上げる。

それを軽く受け流す。


「悪いが言葉使いは人によって使い分けてる主義でね!」



詰めた間合いを利用してクナイを至近距離で投げ落とし、そしてわき腹を狙い蹴りを放つ。





「なら見る目が無いという訳か。」









―この男隙が無いのか。

――こいつ、中々隙を見せないな。








ライは防御しながら蹴りを受け入れ、落ちてくるクナイを手で叩き落とした。





―ナイトオブラウンズか、私の騎士とどちらが強いのだろうか。

――皇帝直属、面白いやつだ。



――それにしても特殊な構え方だな。  中華連邦とも違う。

―それにしても品が無い男だ。 全く今時の若者は。



だんだん二人の考えてることがずれているがそれに気づくことは無い。







ルキアーノは落ちた複数のクナイを足で飛ばし右手でキャッチする。

ライはその際に出来た隙を見逃さずサクスを顔面目掛けて振り上げる。

それは真剣勝負だった。

全身全霊の力を込めてライ右手を伸ばした。

だが飛んでくるサクスをルキアーノはクナイで受け止め、跳ね除けた。

その衝撃でライが後ろに倒れこむ。






それは誰もが息を呑んだ瞬間だった。




「もらったぁ!」

ルキアーノは自分の勝利を確証してライに倒れこみ、両手のクナイを刃を下に向けた。

もはや避ける事は人間業では不可能。

「っ!」

だがライは諦めず手を伸ばした。



















ライが倒れこみ、ルキアーノが重なった。

そして全ての動きが止まった。


静寂の中に荒い呼吸だけが響く。







ライは左手を後ろにつきサクスを数メートル先に飛ばしていた。

ルキアーノはクナイを二本両手で交差し、ライの首を挟んでいて後数ミリで刃が当たるぎりぎりで止まっていた。

ライの荒い呼吸だけがその場に響く。

この体制のまま二人は全く動かなかった。

と、いうよりも二人は動けなかった。





ライの右手は真っ直ぐ伸ばされており、指二本はルキアーノの両目の目前で止まっていたからだ。


ルキアーノの表情にも緊張が走る。



周り人間にはこの状況の情勢がどちらにあるか分からなかったがルキアーノには分かる。

(まさか、このままだと・・・)




そう焦った瞬間目の前の殺気が消える気配がした。















遠くで見ていたヴィレッタは銀髪が後ろに倒れこむのを見た。




そしてルキアーノが立ち上がった時、時間が動きだしたようにヴィレッタ達は動き出した。




二人のハイレベルな戦いの様子からヴィレッタは最悪の事態を予想した。


緊張した面持ちで二人に近づくと不意にルキアーノが立ち上がったので慌てて立ち止まった。

何か言おうと口を開きかけたとき彼にしては珍しい落ち着いた声がぽつりと漏れた。



「気を失ってるだけだ。」


ルキアーノの奥にライは倒れていた。

目を瞑る白い顔は先ほどまで激しい闘いをしていた男とは思えないほど儚げだった。


ルキアーノの両手にはクナイが握り締められていた。




「・・・勝負はそちらの勝利でよろしいですか?」


ヴィレッタが声をかけてもルキアーノが振りむかなかった。

彼の視線は静かに横たわるライに向いている。






「いや、しいて言うならば『引き分け』とでも言うか。」




そういってルキアーノは両手に持ったクナイをライの両脇に落とした。







一瞬ライに当てるのかと思われたクナイは重力に従いゆっくりと落ちていく。


ゆっくりと刃が地面に当たる。








カシャンと派手な金属音がした。








それはただ落ちたにしては違和感がある音でヴィレッタはそのクナイを覗き込んだ。




クナイは二つとも刃が折れていた。

































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長い…

gdgdですいません;;


とりあえず戦闘シーンは終了です。











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