分からないこと、知っていること
「・・・準備はよろしいですか?」
緊張した空気の中ヴィレッタの声は響いた。
ルキアーノは手に数本クナイを持った。
そ
してそれを掌でくるりと回した。
「こんな玩具でも当たれば結構痛いだろうね。」
「そうですね。」
そういってライは軽く体をほぐした。
二人が持つものは軍の練習用の武器である。
ルキアーノは投げ武器を得意としているので、あまり先が鋭利ではないクナイを使う。
ライは色々試しに色々振ってみたり投げてみたりした後、サクス(短剣)を二本使うことにした。
ライが適当に色々武器を振っているのを見てヴィレッタは心配になった。
『おい、もしかして武器を使った経験は・・・』
『無いですね。』
ライは無表情にしれっと呟く。
『ならなぜ、』
『分かるんです。』
そういってライは自分の掌を見つめた。
ヴィレッタは静かにライの目を見る。
その瞳は自分の手をただ静かに見下ろしていた。
『記憶には全く無いのにこの武器を触るだけで分かるんです。
使い方とか何処を狙えば良いのかとか。
人の殺し方を僕は分かるんです。
変ですよね、ほんと。』
日に当たっていない白い手だ。
きっと自分はこの手でたくさん人を殺してきたんだろう。
先ほどの検査でも自分が何故アレを動かすことが分からないのに何故か体が反応した。
頭では理解できないのにまるで勝手に体が動くようでどこか気持ちが悪かった。
自分の体なのに自分の体ではない錯覚に陥った。
だがそれに対して怖いという感情はあまり無かった。
なぜならそれでも良いと思ったからだ。
それでも守ることが出来る力が自分にあるのならいい。
そこでライははっとあることに気がついた。
自分は何を守りたいんだろう。
空っぽの頭の中でその言葉が響いた。
僕が、守りたかったのは、
「最後にルール確認を。
武器は軍の練習専門の物のみとさせていただきます。
時間は無制限。どちらかが『降参』または『戦闘不能』となった時、模擬戦闘終了となります。」
「そうだ、折角戦うなら何か賭けをしないか」
ルキアーノの言葉にヴィレッタはちらりとライへ視線を移した。
ライは一度瞬きをしただけで表情を全く変えなかった。
「『賭け』とは?」
「負けたほうが勝ったほうの言う事を一つ聞くというのはどうだい?
僕が勝ったら君と皇帝陛下の関係を詳しく知りたいんだが。」
その言葉にヴィレッタは目を見開いた。
ライと皇帝の関係を知られたらとても困ることが起きる。
彼らの関係に必ず出てくるものは、黒の騎士団のことともう一つ、『ギアス』。
もしこれが広まってしまえばどうなるだろう。
少なくとも良いことは予測出来ない。
「いいですよ、僕も知りたいことがあるので。」
この事態をどうするか考えているとライの高いアルトが響き渡った。
苦い顔をしたが流石にナイトオブラウンズの言葉を取り下げることは出来ないと分かったいた。
そして二人は数十メータルほど離れたところに立った。
ここは野外練習場である。
周りに障害物は無く地面は芝生だ。
緊張した空気に緩やかに風が吹く。
「では、模擬戦闘開始!」
その言葉と同時にライは走りだした。
「・・・・さん?」
「・・・」
「兄さん?」
ルルーシュはその声にはっとし、視線を上げた。
「ああ、なんだい?」
「もう兄さんったら『なんだい?』じゃ無いだろう?
何回も呼んだのに全然気がつかないからちょっと心配したんだよ!」
ロロは少し怒った様な口癖で兄、ルルーシュを見下ろした。
ルルーシュとロロは二人でリビングの机に向かい合って座っていた。
ロロは学校の宿題を、ルルーシュは本を読んでいた。
暫くしてロロはルルーシュの本のページが全く進んでいないことに気がついた。
「珍しいね、兄さんがぼーっとしているなんて。何か考え事?」
「ああ、ちょっとな。」
そう返事をするとロロは椅子から立ち上がり、キッチンに向かった。
そんな弟の後姿を見てルルーシュはふと思った。
俺は今幸せなんだろうか。
愛する弟がいて、平和で、学園のみんながいる。
会長もシャーリーもリヴァルもいる。
自分は今満たされている筈だ。
でも同時にそんな自分を一歩退いたところから見つめる自分がいた。
自分はこの世界の表面にいて、その中で平凡にいきている。
自分の居場所は本当にここでいいんだろうか。
だがその答えは誰も教えてくれない。
それでもルルーシュは自分は平凡に生きていくだろうと思った。
そして実際ルルーシュは平凡に生かされていた。
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長編久々更新です。
ルキアーノさんの口調がロイドさん並に書きにくいです。
戦闘シーンが好きなのでなかなか書ききれません。
2009.4.2
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