彼らの観察記録










6:59 起床

7:00 洗顔、歯磨きをする。

7:05 着替え、そしてその後朝食の準備をする。

7:12 弟役ロロと共にニュースを見ながら朝食

 視聴内容に思想的偏りは無し。

8:45 登校


一時間目の現国の小テストは満点。

二時間目の科学と三時間目の体育は生徒会室で読書。

本に関しても至って思想的な偏りは無し。

傾向は物理・化学の専門書が多い。

今現在は生徒会の資料作り中。




注意事項

体育の授業は出席日数を数えて出ている様子。

他科目も同じ傾向。

読んでいる本の内容は学生レベルのものではないが、全て理解している様子。

チェスでは校内で負けたことが無い。




























5:50 起床

5:55 朝食

食べる量は成人男性の半分。


6:05 軍に連れて行く



6:15 軍の制服に着替える


6:28 視力・聴力・体力検査

全てにおいて平均を上回る。


7:03 射撃訓練

2,3発試し内の後、全ての的を破壊。

フォーム、命率共に完璧。


7:35 KMFの試験操作

マニュアルを一読で操作。

通常操作に問題はなし。


7:42 模擬戦闘開始

プログラム難易度Fから始める。


5分後、難易度AAに上る。

難易度AAまで過去に行ったのは、ナイトオブラウンズを含める上級戦闘員14名。



模擬KMFのナイトオブラウンズを2機倒した後、2機同時攻撃で戦闘不能になる。










「凄いな・・・」

休憩室でスコアをざっと見て唖然とした。

そのスコアは明らかに異常だった。

特に反応速度は過去最高記録である。
はっきり言うと、人間業では不可能な領域である。


目の前で汗を静かに拭いている人物を再び見る。

白い肌と細い腕はまるで病人のようだ。



不意に蒼い瞳がこちらを見た。

「・・・どうか、しましたか?」

「あっいやなんでもない。それよりこの後、」


「おや〜これはヴィレッタ卿ではないですか。」


(この声・・・・)

振り向いた先には軍の指揮官の男がいた。




その男の姿を見た瞬間、ヴィレッタは男に気づかれないよう、小さく舌打ちをした。



彼も純血派メンバーだったが、ジェレミア卿の『オレンジ事件』をきっかけにすぐに純血
派をやめていった。


もともと家柄が良かったため、家柄が低いものを下に見ていて、ヴィレッタをあまり良く
思っていなかった。

その為、彼とはあまり良い思い出が無い。




「お久しぶりです。」

「いや〜、話に聞くと中佐まで出世したそうで」

ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべた男は同僚(というよりも手下といった方が相応しいだ
ろう)を二、三人連れていた。


「朝早くから出勤ですか。忙しそうですね〜。」

ヴィレッタはライの頭にタオルを乗せ、ライの一歩前に出るように立った。


正式に軍に入っていないので、ここでライについて触れられたら流石にまずい。




「そうですね。」

表面上はあくまで冷静に対応する。

「そういえばここ最近お姿を見ませんでしたが如何お過ごしでしたか?」

くすりと笑い、周りの者たちを見回した。



「なんでも噂では黒の騎士団に捕まっていたそうですが。」

記憶喪失と言えど、それは確かに事実。



「・・・・・・・」

黙るヴィレッタを見て、その男は鼻で笑った。


「まさか、本当でしたか!?いやー、そんなことがあったなんて。」


わざとらしい態度に苛立つが、静かにその男を見上げる。


「どこのご出身でしたっけ?確かあまりお聞きしない名前ですが・・・」




「・・・これだから生まれが悪い者は。」

「っ・・・・・・」


その言葉に反射的にその男を睨み上げる。


だがもう十分訓練して来た身であるヴィレッタは何も言わず自分を押し留める事が出来た。


ちいさく深呼吸をしようとした時、部屋に高め静かな声が響く。

「生まれとかって関係ありますか?」



その声はテノールというよりもアルトといった方が相応しいだろう。


部屋の空気が一瞬止まったが、すぐにみな、その声の発信元を見る。


「だれだ、貴様・・・」

明らかにその声には怒りのものが含まれている。


だがそんなことも気にせずその声の持ち主、もといライは続ける。


「貴方の質問には、僕の質問を答えてくれたら答えます。」

その発言に男はいらっとした態度を隠さなかった。


「言葉の通りだろう!イレブンは今だに武力抵抗をしている。
 その他の植民地もそうだ!
 力が無いくせに頭が足りないから武力にでる。
 生まれは関係するだろう!」

「本当にそうでしょうか?」

「何が言いたい・・・」

「先にブリタニアが武力で攻撃してきたんです。
 そうなると防御の為に武力で抵抗するしかなかったんじゃないですか?」

ライはたんたんと言葉を綴る。

「それに聞いた話では、新しいナイトオブセブンの方は日本人と聞きました。
 それは実力があるからじゃないんですか?」


そういうと男は顔を真っ赤にしてライにつかみかかった。

「先ほどから貴様の発言はなんだ!?
 ブリタニアの軍人として志が足りないのではないか!?」


明らかに逆ギレではあるが一理ある。

日本はエリア11となった。
それに伴い、日本人はイレブンと言われる様になった。


軍人ならば問題発言である。


そういうとライは少し悩むしぐさをした後顔を上げた。

「僕はどうすれば誠意をあらわせますか?」


「は?」

「今ここで何を言っても信じてもらえないでしょうから。」

「態度で示すという事か、話が早くて結構。
 ならうってつけの相手がいる。」

自信たっぷりの男の態度にヴィレッタの頭に一つ嫌な予感がよぎる。



(もしかして・・・)

「KMFの試乗経験は?」


「ありません!」

答えたのはライではなかった。


「なら模擬戦闘は武器制限の肉弾戦でいいな。」

男は余裕の表情を見せる。


「貴方が相手なんですか?」

「私よりももっと相応しい御方がいる。
 皇帝陛下への忠誠心は私よりもずっと深いだろう。」


ヴィレッタには『皇帝陛下』という単語で思い当たる人物が一人いた。


「その方はまさか・・・」

「?知ってる人なんですか?」

ライが不思議そうに首を傾げる。


「多分、」

ヴィレッタが答えようとしたら不意に廊下が騒がしくなった。

そこには緊張感も含まれている。


その男もネクタイを整えそして扉に向かって敬礼をする。



「お待ちしておりました。」

その人物が一歩部屋に入ると部屋の空気が変わった。



オレンジ色のマントが翻った。


ヴィレッタが敬礼をし、ライも遅れて敬礼をした。

静かになった空間に、その人物が動く音だけが響く。



「で、今日の相手は?」


黒手袋を嵌め直し部屋を一瞥する。

「あの男でございます。」

そしてあの男がライを指差した。



「はじめまして、ライです。よろしくお願いします。」

ライはいつも通りに対応する。



攻撃的な目付きでライを見る男は暫くライを観察すかのように上から下まで一瞥すると
言葉を続けた。



「ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー だ。

 お前、聞かない名前だが、どこの隊にいるんだ?」


ヴィレッタがはっとしてライを見るがライは暫く考えてから顔を上げた。


「どこの隊にも入隊していません。
 多分今は皇帝直属になってると思います。」


その発言に空気がざわめいた。


ただ一人ルキアーノを除いて。


「面白い・・・勝負はKMFか?」

「あ、なんか違うみたいです。」


ライのいつも通りの口調に焦りつつもヴィレッタがライの斜め前に出た。


「真に失礼ですが、これはまだ新人であります。
 KMFも肉弾戦もナイトオブテン様に到底及びません。
 ですから・・・」

「失礼ですぞ、ヴィレッタ卿。もう決まったことに口出しするのはどうかと」



「なら僕が直式に新人教育をしてやろうじゃないか。
 それに皇帝直属の実力を見たいし。手加減するから本気でおいで。

ルキアーノが鼻で笑うとライは無表情を少し崩した。




「全力でいきます。」

その目には強い意志があった。







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