彼と彼の呪い













ああそうか。

呪いが解けたからか。






どうりで食欲が抑えられなかった訳か。
と、勝手に一人で納得する。



ライが自分自身に掛けた呪い、それは『本能』を抑えるものだった。


ライが生まれた時代は戦争の真っ只中である。

今でも戦いは続いているがあの頃とは違う。





国と国が争い人間同士が毎日のように殺しあっていた。

勿論吸血鬼も。




ライ達の一族は山一帯を所持していてそこの中腹あたりに大きな城があり、そこで暮らしていた。


山のふもとには町があり、そこには普通の人間たちの振りをした吸血鬼達が住んでいる。

















生まれた時から自分は普通と違う事を理解していた。

自分には人間も吸血鬼も持たない不思議な力を持っている。




絶対尊守の力『ギアス』―。

生まれた時から本能的に理解した力は、コトバの束縛。


でも使ったことは無かった。

何故なら必要が無いからだ。



僕は僕を守る力も、地位も、財力も何もかもそろっているからだ。



僕は生まれた時、誰よりも強い力を持っていた。

第一継承権を与えられていて一族の者はみな誰もが次の王になるのに相応しいと思っている。



一対十だろうが一対百だろうが関係無い。

彼には圧倒的な力の差があった。

最強の力、だがそれは勝利と共に暴走を招いた。












吸血鬼は理性を持っている。

吸血鬼は人である。





誰かと一緒に喜び、悲しむ。



花を綺麗だと思う心情も、洗い立ての毛布が気持ちいと言う感覚もヒトと一緒である。



誰かを忌み嫌い憎むことも、誰かを好み愛することも。









吸血鬼は凶暴な化け物ではない。




そんな吸血鬼を人間に繋ぐもの、それが理性である。







理性が無くなれば人は本能のままに動く。



吸血鬼の本能、それは『破壊』だ。




























ライはたびたび記憶が無くなることがあった。



気がついたら何故か森の中にいた。



最初は吸血鬼に多々あることだと聞いていたし、特になんの被害も無かったので気にしなかった。





だがそれは序々にエスカレートしていく。



気がつけば部屋の洗面代の鏡が割れていた。

足元に散らばる破片は驚愕の顔をした自分を細かく写した。


そんなことが続いてライは内心とても不安だったが彼の立場ではそんなことを表に出してはいけなかった。

自分は王になり、民を守らなければならないのだから。



そして彼が15歳の時初めて戦場に立ったとき「それ」は起こった。







彼が覚えているのは自分の名前を呼んだ友の声。

そして振り返った時に目に入った大きな剣。











そこで一度記憶が途切れた。

















再び目を開けたときそこはとても静かだった。

ぼやけた視界がゆっくり揺れる。


ライは自分の頬から何かが滴る感覚がした。

無意識にそれを手の甲で拭おうとした時、自分の手が視界に入った。



(赤い・・・これは・・・)






それが何か判別した瞬間ライは目を見開いた。

視界が一気に戻り、意識も一瞬で冷めた。


ライはゆっくり自分の震える手を見つめた。


だがライは次の瞬間もっと驚くことになった。



自分の視界の奥には人が倒れている。

それも沢山。



誰一人動いていない。


自分の仲間達も何人か倒れていた。


そしてそれ以上にもっと多くの敵が倒れている。





誰一人動いていない。













ライは一人でそこに立っていた。











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ひさびさ吸血鬼の更新です。

今回は過去編を・・・








2009.05.05

ぎが






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