はじめまして、







何だろう、体に力が入らない。


こぽこぽと水の音が聞こえる。


体にくる不思議な浮遊感。


肌が麻痺して温度は感じられない。


眠気はとっくに切れているはずなのに、何故か目が開けられない。


手に力が入らなくて、指先すら動かせない。


口と片目には器具が繋がっている。





この感覚、・・・なんとなく分かる。


懐かしさはあまり感じない。





精一杯目を開ける。




そこはある実験室のようなところ。

ライは細長い丸いガラス管の中に入っていた。


白い服を着た研究員の一人と目が合った。


『た、対象が目を、さ、覚ましました!』


そして回りの空気が変わった。

慌しく動き回る研究員の男たち。


数はざっと見て13人。

このガラスの硬さは前、経験していたものと変わっていた。


まあ、当たり前だろう。

あの程度の強度のものではライを抑えらなかった。





ゆっくり自分の状態を確認してみる。


水のなかにつらされるように浮いている。



首に何かかけられている。

そして白い拘束服の上下を着させられている。



ライは記憶の一部を思い出した。



(ああ・・・そういうことか)

これで大体のことは繋がった。


きっとこうして拘束しているのも自分が吸血鬼だからだろうとライは予測した。
吸血鬼は高く売れるから。


だが奇妙な点がある。


わざわざ皇族が捕まえるほどのものだろうか。

吸血鬼のおもな分布は皇族を中心とした高級貴族と聞いている。

それと、日本の皇族の皇家。


前に貴族が高値で吸血鬼を買うという話は聞いたことがあった。


だが皇族ともあろうものたちが手を汚すような真似をしてまで捕らえる価値はあるの
だろうか。





そうこうしているうちに何人かの研究員が部屋を出て行った。


今が多分チャンスだ。


ライはわざと自分の舌をかんで、自分の血を飲み込んだ。


そうして目を完全に開け足に力を入れようとした時ー。




体に異変が起こった。

いや、正しくは全く異変が起こらなかった。




おかしい。



血を飲んだのに体に力が全然入らない。



自分のからだの異変に戸惑っているとドアが開いた。



『ああ、起きたんだね』


一人の男と、一人の少年が入ってきた


男には見覚えがあった。


びくびくと怯えライを恐怖の対象と見ているこの男。


(『バトレー』か)


そして逆に笑っているこの少年。


この雰囲気は前にも感じたことがある。

確か、前学園で見かけて少し話した翠の目と髪の少女ーC.C.。



この二人はよく似た感じがする。


『はじめまして、ライ』


ガラス越しの癖に、何故かその声ははっきりと届いた。



『気分はどう?』

最悪だ、と眉間にしわを寄せることで返事をした。

そうすると少年はクスっと笑った。
『あまり良くないみたいだね』

あまりじゃない。

苛立ちを覚えつつ体を動かそうとした。


血を飲んだ筈なのに、指先が少ししか動かない。


『やっぱり君は凄いね、この薬品に漬かっていて、
 それだけ動かせるなんて。

 その薬はね、ライ。
 吸血鬼を拘束するときに使うんだ。
 普通なら指先を動かすなんてもちろん出来ないし
 思考力も止まって、目すら開けないんだよ。

 やっぱり君は『開祖』なんだね。』


そうして少年は耳打ちで近くの研究員に支持を出した。



そうすると水槽の中に液体が注がれた。


ライは目が開けられなくなって再び目を閉じた。




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